「経営学」と聞くと、一般には大学の経営学部で学ぶ専門科目や、最近では米国生まれのMBA(Master of Business Administration:経営学修士)教育のような学問をイメージされる方が多いのではなかろうか。私自身、大学では理工学部に在籍しながら「マネジメント・サイエンス(経営科学)」を専攻し、また米国ビジネススクール(経営大学院)でMBA教育を受けてきただけに、従来の「経営学」をそのまま肯定してきたほうである。しかし社会での実務経験(大手化学会社の経営企画室スタッフ業務、経営コンサルティング業務など)と教育分野での経験(大学経営学部の教授職など)を通じて、従来の経営学の取り扱われていない“物足りなさ”を実感するようになった。さらに度々報道される企業不祥事に接することで、これまでの経営学のあり方や学び方だけでは、現実の企業組織の問題を解決できないのではと疑問視するようになった。

当然のことではあるが、企業等の組織が生き残るためには自組織を中心に考えねばならない。すなわち自組織を“主体”に置いて、いかに有利な事業活動を展開していくかを追い求めていくと、次第に過度な“競争原理”へと突き進む傾向が強くなる。これは短期的には有効であっても中長期的には社会から受け入れられず、結局、持続可能な経営が成り立たなくなるのではなかろうか。多くの企業不祥事は自社利益を優先することから、社会を欺くような非モラル的行動に走った結果とみることもできる。
自社にとっての利益に直接寄与する能動的な経営学を「専門コア科目」とするならば、それだけでは不十分であり、その基盤や背景にある「周辺教養科目」を学ぶことが求められる。すなわち“一般教養”ともいえるリベラル・アーツ(Liberal Arts)教育が不可欠ということである。

具体例を挙げてみよう。昨今、大学の経営学部でも企業の事業展開を反映させて「グローバル経営論」という「専門コア科目」を履修するところが多くなっているが、この講座ではグローバル人材の育成・採用やグローバル販売体制、さらにグローバル資金調達戦略などを中心課題として取り上げている。しかし社会に出て海外事業の実務に携わると、進出国現地の言語だけでなく、その国・地域の文化や習慣、さらには宗教などにもある程度、精通していないと、計画通りに事業を軌道に乗せることができない。したがって、下図の専門コア科目である「グローバル経営論」を支える上に有効なのは、周辺教養科目群のなかの「文化人類学」や「宗教学」であることを理解することになる。

(「経営学」の学び方と、専門コア科目・周辺教養科目の関係(作成:吉田健司))

ここで宗教学を紹介したので、関連して仏教用語にある「自利利他」という言葉も再認識してみたい。目的を自分の利得にとどめているのが「自利」で、他人が利益を得られるように他を生かしてやるのが「利他」とのこと。重要と思われるポイントを強調するため、敢えて粗っぽい定義をすれば、「専門科目」が「自利」で、「周辺教養科目」が「利他」に該当するような関係にある。

さらにこれまでの「経営学」について再評価すると、即効性が高く理論的に体系化されているので“必要条件”はクリアーしているが、リベラル・アーツ的要素が不足しているので“十分条件”は満たしているとは言い難い。

話は少し反れるが、私は明治時代以降、欧米から導入された理論やスキル等によって体系化された洋式「経営学」(経営術)に、一般教養や道徳観のようなココロの側面を重視した和式「経営学」(経営道)を融合し再構築したものを、新たに進化系「経営学」として提唱したい。これは「フュージョン経営学」と名付けてもよいが、視覚的にイメージしやすいので「あんパン経営学」と命名してみよう。その由来として「あんパン」の歴史に少々お付き合い願いたい。まずパンが日本に伝えられたのは、1543年ポルトガルから種子島に銃とともに伝来されたときと言われている(パンはポルトガル語)。しかしその後の鎖国やキリシタン弾圧等によってパンは長い間、姿を消してしまった。そして明治に入ったあとの1869年、「木村屋総本店」がパンのなかにあんこを入れて明治天皇・皇后に献上してから、「あんパン」を通してパン文化が日本中に広まったとのこと。私が開校した、学び直しの経営塾【寺子屋カレッジ】では、洋の経営術がパンとし、和の経営道をあんことして、和洋折衷型の進化系「経営学」
を『あんパン経営学』と名付けて、講座を開いている。

(和洋折衷型の進化系「経営学」⇒『あんパン経営学』)

これまで「経営学」の学び方について「専門コア科目」だけでなく、リベラル・アーツとしての「周辺教養科目」の重要性を説いてきた。そこで、私は「専門コア科目」のなかの主要10科目を選定し、リベラル・アーツ的要素を取り込んだ進化系「経営学」として、『あんパン経営学』を学び直しの経営学としてお薦めしたい。

最後に「学び直し」の重要性について再度強調しておこう。技術進歩などの変化が激しく、100年人生を迎えている今日、この学び直しへの必要性は一層高まってきているが、社会構造だけでなく個人の意識がそれに即応していないのが現状である。日本の場合、一般に学校を卒業すると「試験や勉強から解放され、学習過程を終了した」と考えがちであるが、米国の大学・大学院では卒業式のことを“commencement”すなわち「はじまり・スタート」と呼び、大学を社会への助走期間と捉えているのである。ここで、インド独立の父であるマハトマ・ガンジー言葉を紹介しよう。

Learn as if you were to die tomorrow.(明日、死ぬかのように生きなさい。)
Learn as if you were to live forever.(永遠に生きるかのように学びなさい。)

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